　現代人は、注射や薬の力を過信しているように思われます。かの有名な、西洋医学の始祖、ギリシャのヒポクラテスは「医は自然の僕なり、自然は医なり。病気はわれらの力で治すことはできぬ。ただ自然の力によってのみ医治される」といって居りますが、それはこの二十世紀の現代においても真実であり、われわれの健康を保つ上において銘記すべき言葉であります。然し現実に自分が病気にかかり、医薬も利き目がないとなった時にはどうでしょうか。多くの人は、あらゆる民間療法に迷ってますます心の病を深くしているのです。が、ここに人体の生命線、背骨のゆがみを矯正することによって、病気の原因を除く方法があるとすれば、これこそ自然に従う真の根本療法ということができましょう。　四十年前のことです。ひどい胃腸病と神経衰弱を十年間もわずらっていた私は、京都大学病院に於い胃癌の疑いで切開手術をうけました。幸い、胃癌でなく、交感神経の異常と診断され、幽門部狭窄のため胃と腸を縫合して幽門の外に新しい流出口を作りました。ところが、一旦腸に流出した消化物が逆流して胃に戻ることが起り、その苦痛はとても激しく、再び手術をしようと決心しました。その夜或る友人の勧めにより、元京都大学病院長加屋博士の診察を受けましたところ「胸腔内臓器が著しく下垂しているために胃腸をヒドク圧迫しておる、この下垂した内臓を手術によって釣り上げる方法もあるが、今日の学問上これが完全な方法と云えぬ、無論注射や、服薬では治るものでない」この博士の診断は死の宣告のように感じました。かえりみれば発病以来、良い医者、良い薬にあえば必ず治るものと思っていた唯一の希望はさては自分一人ぎめの、思惑に過ぎなかったと気のついた時、残されたものは死の一途あるのみ、全く絶望し、まるで千じんの谷底へ突落とされた心地でありました。その時、ふと頭に浮かびましたことは、茶碗にひび（にゆう）の入ったことであります。一度茶碗にひびが入れば、絶対にそれは取れません。現に自分の身体にもひびが入っている。そのひびを取りたいと思って、多くの医者に診て貰らったのですが最後に加屋博士から其のひびは手術でも、注射でも服薬でも治らないと宣告されたわけです。ひびは絶対に治らないものと解って見れば、治らぬものを、治して下さいと医者を困らせ、其間多くの金と時間を費し、また家族にも一方ならぬ苦労をさせたことは誠に申訳ないことであった。殊に自分も日夜苦しみ悩み、云いつくせぬ苦心をしたことは実につまらぬ、無駄なことであったと思いましたら妙に気持が楽になって、茶碗のひびは絶対に取れないが、大切に扱えば永く使用することができる。既に自分の身体にもひびが入っているのだから、大切にして死ぬまでやろうと覚悟が決まりました。同時に「治りたい」の執着から放れてかえって心が落着きました。　以上はわたくしの当時の心境の変化ですが、病気の方々には頑味して頂きたいのであります。然し重態のことてしばすば胃腸は痛みます。或夜はげしい胃けいれんが起りその苦しさにたえかねて、無意識に背中に握りこぶしを敷き当て、そのまま眠ってしまいました。目がさめた時、いつになく気分がさわやかで、その後は胃痛のたびごとに握りこぶしを敷当てることになりました。然し握りこぶしは手がいたくなって長く続けることができません、何かこれにかわる良いものはないかと考えたことが、この健康器考案の動機となって、まず試作品を作らせ、根気よくいろいろ工夫して使用しました結果、永年のがんこな胃腸病も神経衰弱も完全に治り、四十年後の今日まで再発もせず、健康を保っています。これが私の治病の体験であります。